遠藤周作『沈黙』

<概要>

遠藤周作(1923-1996)の『沈黙』は、1966年に書かれ、出版されました。

多くの国で翻訳され、高い評価を得ました。

2016年にはこの小説を原作とした、マーティン・スコセッシ監督によるハリウッド映画『沈黙-サイレンス』が公開されました。

(窪塚洋介さんのハリウッドデビュー作品として話題となりましたね。)

遠藤周作の『沈黙』はノーベル文学賞の候補と言われていましたが、様々な理由で受賞を逃したと言われています。

 

遠藤周作は自身がキリスト教徒であり、様々な作品でキリスト教を主題とした作品を書いています。

また遠藤周作が作品の中で描くキリスト教は西洋の中のキリスト教としての考え方や教えを説くのではなく、いわば「日本に合ったキリスト教」としての捉え方を描いています。

特に『沈黙』と言う作品は、日本の鎖国時代、キリスト教が禁教だった時代を描いています。

その中で描かれる遠藤周作の考える「イエス像」は、カトリック教会の見方とは異なり、様々な論争がなされましたが、グレアム・グリーンというイギリスの作家からは「20世紀のキリスト教文学の中で最も重要な作品である」という評価を受けました。

また遠藤自身は『沈黙』執筆にあたり、グレアム・グリーンの『権力と栄光』という作品に大きな影響を受けた、と語っています。

 

<あらすじ>

宣教師であるロドリゴは、師匠である宣教師フェレイラが日本で弾圧に負け、棄教したという知らせを受ける。日本に向かうため立ち寄ったマカオでキチジローという日本人と出会い、長崎の五島列島に到着したロドリゴは、日本の隠れキリシタンたちと出会う。

隠れキリシタンたちが受ける弾圧や処刑の風景、キチジローの裏切りによる自身の投獄から、苦難において神の「沈黙」する姿に悩み苦しむ。

 

<感想>

信仰を持たない人にとっては、目に見えないもの、存在しないものを無条件に信じる、というそれ自体が滑稽に映ることと思います。

特に宗教を扱った作品は嫌煙されがちかと思います。

 

私はこの『沈黙』という作品は、「キリスト教徒」のみを対象に書かれた作品だとは思いません。

人は誰でも何かを「信じて」生きていると思います。

自分自身、恋人、家族、尊敬する人、好きな物事。

それは人によってそれぞれだと思います。

しかし何かを「信じて」、行動の規範とし生きているのに違いはありません。

誰でもあまりにも困難なことに直面した時、解決できないような出来事が起こった時、先の見えない、答えのない、どうすればいいか全くわからない、真っ暗な状態になるはずです。

この作品の主人公は、キリスト教の宣教師です。

無条件にキリスト教の教えを信じ、また人々に伝えています。

しかし、あまりにも大きな困難に直面した時、神は「沈黙」を続けます。

決して答えを与えてはくれません。

助けてはくれません。

神の教えを実践し、こんなにも信じているのに。

何度も何度も自問自答し、最悪の考えまで浮かびます。

 

私はここが重要だと思います。

どんな場合であれ、答えのない真っ暗闇の中を彷徨うのは耐えられません。

自問自答を続けるということは大変苦しいことです。

答えがないのですから。

それに「自分」というものは分かっているようでとても分かりにくいものです。

自分を外から見ることはできません。

他人のことはよくわかるはずです。

「あの人の良いところは○○だ。」「あの人のあういうところはダメなところだ。」「ああすればいいのに、こうすればいいのに。」と他の人のことはよく分かりますよね。

極限まで自問自答を繰り返し、自分自身と対話をするということは、自分のありのままをさらけ出し、振り返り、見つめなおし、そして受け止める、ということだと思います。

自分とは一生離れられません。

どんな場合でも私は私と付き合っていかなければなりません。

誰でもが人生で一度は直面する壁です。

その場面を赤裸々に描いています。

キリスト教を信仰していなくても、考えさせられる内容になっていると思います。

正直、とても苦しい内容です。

私は電車の中で読んでいて、胸が締め付けられ、泣き出しそうになりました。

 

また「キチジロー」という人物が物語のキーマンになっています。

彼は聖書で言う「裏切り者のユダ」的な役割で登場していますが、私は彼を決して憎むことはできません。

彼はとても人間らしい人間です。

彼は臆病者で、悩み、苦しみ、自分自身を責め、後悔しています。

真っ当に生きることがどれだけ難しいことかを実感します。

しかし彼も主人公と同じように自問自答を繰り返したと思います。

 

人生はいつでも楽しく、幸せではありません。

むしろ苦しい、悲しいことの方が多いでしょう。

小さいものから大きな悲劇まで様々でしょう。

しかし、苦しみ、悲しみ、悩み、もがいて生きるからこそ、楽しいことや幸せなことがわかるのではないでしょうか。

何が本当に大事なのか。

価値観が変わる一冊です。